塩について塩についてどれほど考えたことがありますでしょうか。わたしはあまり気にしたことがありませんでした。塩分過剰はいけないとよく商品や広告等で見たか、病院で聞いたかしましたが、それは高血圧の人が気にするもので、わたし自身はむしろ低血圧ぎみだったので関係ないと思っていました。しかし、世の中には減塩と書かれた醤油やら味噌やらがたくさん売っています。ただ、ここで減塩の是非にこだわろうとは思いません。
それでも人間にとって塩は不可欠なものです。汗は舐めると塩っぱいです。人間の体内の0.9%が塩分ということです。日本は海に囲まれ塩に困りませんでした。そのため日本の食文化、いや、文化そのものが塩と不可分に結びついています。味噌など発酵に使われるだけでなく、料亭の門には盛塩がしてあったり、お通夜から帰ったら塩を玄関から上がる前に身体にかけたり、お相撲さんは土俵で塩を撒いたりします。ドイツやパキスタンでは岩塩が多く取れます。日本では取れません。
日本は湿度が高く天候不順も多いため天日には向かないため、煮詰めて塩を取り出すという方法が取られてきたということです。
これは日本の縄文後期から弥生時代までさかのぼる太古からの話です。しかし、戦後、日本の塩に激変が起こったのです。
1971年塩業近代化臨時措置法の成立です。わたしが生まれた頃です。これにより日本の古くから伝わる塩田が廃止されました。もっとも60年代初頭から徐々に塩田を廃止する動きが進められてきたのでした。なぜ、日本の塩田は廃止されなければならなかったのか。
1949年に日本専売公社が設立され、塩も専売制が導入されていました。これはタバコ、塩、樟脳を供給の安定化を図る名目で民間での販売を禁止し、専売するものです。もっとも塩は1905年から専売されていて、タバコと樟脳については明治時代から徴税を効率化するために専売が導入されていました。戦費調達も大きな理由だったでしょう。塩の専売は、1997年まで続きました。
わたしはすっぽり政府のつくる塩で育ったということです。
子どもの頃、塩と言えば赤いキャップの食卓塩だったと思います。今もほぼ同じデザインで売られています。しかし、現在は様々な塩を選ぶことができます。この赤いキャップの食卓塩は、イオン交換膜法で作られた精製塩です。1971年に塩業近代化臨時措置法によって塩田による製法が禁止された理由として、このイオン交換膜法の普及があります。これによって当時大量に必要とされた工業用の塩の調達が可能となりました。その他、海外からの安価な塩に対抗する経済的理由もありました。イオン交換膜法では海水と塩化ナトリウムをプラスとマイナスのイオンを使って分離します。その結果、精製された塩化ナトリウムが取れます。
これにより本来塩が持っているミネラルが失われてしまうという問題があるのです。
あの赤いキャップの食卓塩は、現在は塩事業センターが販売しています。製造は別会社です。メキシコの天日塩を日本の海水で溶かし、それを立釜で蒸発させ結晶化します。イオン交換膜法ではありません。溶解・立釜法と言います。そこに、炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムなど、固結を防止する添加物が入れられます。しかし、これも精製塩であることには変わりません。ミネラルは失われてしまいます。精製された塩というものは、本来の塩と言えるものでしょうか。塩化ナトリウムという化学物質です。NaClです。海水から塩分を取り出したあとの液体をにがりといい、豆腐の凝固剤としてつかわれてきました。このにがりの主な成分はマグネシウムです。日本人はマグネシウムが不足しているといいます。本来、塩にもマグネシウムが含まれていました。それだけでなく様々なミネラルが含まれていたのですが、イオン交換膜法により失われてしまいました。それに危機感をもった自然塩を復活させようとする団体が立ち上がり、塩の規制緩和と自由化を訴えてきました。そして、日本の伝統的な製法で塩を製造できることになったのです。
それが、伊豆大島でつくられる「海の精」です。
自然塩という言葉の定義は明確ではありません。ここでは自然塩を日本の原料を平釜製法でつくったものと定義します。様々な塩の商品や広告に自然塩と書いてありますが、「海の精」はまさに自然塩にふさわしいものだと思います。かつては入手しづらかったようですが、現在では普通にスーパーで売っています。メキシコなどの海外の天日塩でなく、伊豆大島の海水が100%使われています。もちろん、イオン膜交換膜、立釜でもありません。昔ながらの伝統製法に加え、40年の研究の育成があります。パッケージ裏の製造方法には、天日、平釜と書かれています。これが自然塩の目印です。ミネラルを豊富に含んでいる証です。実際、食べて比較してみると、「海の精」は柔らかくやさしい味がします。精製塩の舌を刺すような塩っぱさがありません。日本の自然の食物は大抵そのようなやさしい味を持っています。
ここで、食品表示についておさらいしておきます。
・海水(瀬戸内海)イオン膜 立釜 乾燥
精製塩です。海水を電気分解しています。
海水は瀬戸内海です。かつてはここに塩田があったのですが。
・海水(赤穂)イオン膜 立釜
精製塩です。海水を電気分解しています。
海水は赤穂。兵庫県赤穂市は古くから塩の生産で有名ですが残念です。
・海水(日本)イオン膜 立釜
精製塩です。海水を電気分解しています。
にがりを含むと書いてありましたが、あとからたしているのでしょう。
・天日塩(オーストラリア)粗製海水塩化マグネシウム塩化マグネシウム(にがり)
洗浄 粉砕 溶解 立釜 混合
海外の天日塩を日本の海水で溶かし、立釜で煮て結晶化しています。
・海水(100%沖縄)逆浸透膜 平釜 平釜
これは会社名を言うと「青い海」です。
逆浸透膜とは濃度の濃いほうに水が吸収される浸透圧に逆の圧力を加えたものと言えるでしょうか。これはほぼ自然の力を利用していると考えてよいのでは。自然塩と言えます。
・天日海塩(メキシコまたはオーストラリア)
溶解 平釜
こちらはあらしお株式会社の「あらしお」です。
海外の海塩を瀬戸内海で溶かしていますが、平釜製法であることが、信頼できます。
・海水(岡山)イオン膜 立釜
こちらは国産原料100%、にがり成分を含むと効果的なキャッチの大手製品ですが、イオン膜立釜なわけです。
・海水(沖縄県粟国島)天日 平釜
こちらは「粟国の塩」です。自然塩です。
「青い海」に比べると逆浸透膜と書いていません。
・天日海塩(93%メキシコまたはオーストラリア)、海水(7%日本)
溶解 立釜
こちらは非常に普及している「伯方の塩」です。
ほとんど海外産の原料です。「あらしお」に比べるとこちらは立釜です。
・海水(宮古島)逆浸透膜 加熱ドラム
こちらは「雪塩」ですが、立釜とも平釜とも書いていません。その代わり、加熱ドラムとあります。他とは違う製法ということでしょうか。逆浸透膜は「青い海」と同じです。
・海水(石垣島)逆浸透膜 平釜
「石垣の塩」です。自然塩です。沖縄県はいろいろ塩を選べますね。
長々と書きましたが、わたしのおすすめは「海の精」「粟国の塩」等沖縄の塩、もしこれらが売ってなければ「あらしお」になります。
最後に塩の食べ方をご紹介します。
わたしは自作のごま塩を作ります。ごまはゴマすり鉢で擦ります。ごまは固く殻で覆われた小さな種ですから、すり潰したほうが吸収がいいのです。それと自然塩を混ぜて完成です。玄米にかけて食べればそれだけで豊富な栄養がとれます。
もう一つは、日本酒を飲むとき、塩を盛って、舐めながら飲むというものです。升の角に塩を盛るのが粋です。日本酒は辛さ甘さなど複雑な味を楽しめますが、塩っぱさはありません。酒の肴に塩辛さはよく合いますが、ミネラル豊かな塩そのものを食べることで、日本酒の味も敏感に感じ取れるようになります。
下におすすめの日本酒をリンクさせていただきます。