マーケティング

マーケティングが生み出されたのは、さほどむかしではありません。しかし、現代では非常に高度に発展し、さらに、SNS、AIなどの新テクノロジーの浸透により、もはや、わたしたちの社会はマーケティングに囲まれているような状況です。

マーケティングを商品を売れるようにすることと解釈されていることが多いようですが、それだけでは問題があります。きれいごとを言うつもりもありませんが、売るということだけに焦点をあてるなら、セールスという言葉のほうがふさわしいと言えます。マーケティングとセールスの違いは、ドラッカーが「マーケティングはセールスを不要にする」と言ったとおり、マーケティングが顧客とのコミュニケーションによってウォンツ・ニーズを把握し価値を提供することを目的とするのに対して、セールスは商品を売って売上を上げることを目的とした1部門的な考え方です。この二つは本質的に相容れない考え方です。確かにマーケティングのなかに、売る仕組みがあるのは商売ですから当然ですが、売ることをゴールとしていないのです。ゴールが違うものを組織内で共存させると齟齬が生まれます。わたしたちは、マーケティングを考えるべきです。それだけ企業の役割は社会で大きいものになり、また、なにより仕事というものが、経営者にとっても、従業員にとっても自己実現的な幸福に繋がらなければ、社会の仕組みとして成り立たないからです。

コトラーは、マーケティングを1.0から5.0へ進化したと定義しています。つまり、製品中心から消費者中心へ、さらに価値主導、自己実現、顧客体験価値へとマーケティングの目的が変化してきました。

また、マーケティングは手法の上でも、進化を重ねて来ました。初期にマネジニアル・マーケティングがありました。企業の販売に関わる一部門として位置づけられていたマーケティングが経営者の管理下で企業活動の中核と位置づけるべきだと主張がなされました。同時期にドラッカーは企業で必要なものはマーケティングとイノベーションだと言いました。その後、マーケティングの研究は発展し、コトラーが体系化しました。

一般にマーケティングというと、分析手法が多く取り沙汰されます。SWOP分析、STP分析、3C分析などです。また、Webマーケティングで様々なSEO対策やGoogleでの分析を利用したり、SNSなどのツールの利用法が各企業で商品化されていて、最新のマニュアルを理解する必要があります。こうした分析手法はどのように、何のために使うかという上位の目的意識が必要で、それがないとこれを学ぶことだけに時間を使い、目的を見失うことになりかねません。KPIを上げることだけを目的として、経営全体との齟齬から支障が出ては本末転倒であり、マーケティングの本来の意味からはずれてしまいます。

コトラーはホリスティック・マーケティングを提唱しました。ホリスティックとは全体的という意味です。ホリスティック・マーケティングは、リレーションシップ・マーケティング、インターナル・マーケティング、社会的責任マーケティング(パフォーマンス・マーケティング)、統合型マーケティングの4つの要素で構成されています。ステークホルダーとの関係を構築し、組織の内部に共通の目的への認識を浸透させ、社会的な責任を果たすことで信用を得て、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、販売促進(Promotion)の4Pによって価値を提供するというものです。これらを包括的に実行していくことは、マネジメントなしには考えられません。マネジメント以外には不可能なことです。したがって、コトラーの主筆は「マーケティング・マネジメント」となります。

マネジメントと言えばドラッカーの主筆です。コトラーはドラッカーに当然影響を受けています。ドラッカーのマネジメントの理論から、コトラーのマーケティングを捉え直すことは有意義だと思います。ドラッカーは企業の目的、存在意義を問うことを繰り返し述べました。また、その答えは会社の外にある。つまり、顧客側に規定されるということになります。企業は顧客について知らなければなりません。それは現在の顧客とのリレーションシップを構築することでもありますが、まだ、見ぬ顧客、いわゆる潜在顧客、自社の持っている強みとマッチするウォンツとニーズ持っている顧客と繋がらなければなりません。しかし、顧客は自らのウォンツとニーズも認識していないことがあります。その市場を調査することは困難です。企業は既存の市場を調査するだけでなく、社会の動向、人口の変化、価値観の変化、経済状況の変化、地域性、顧客のパーソナリティなどを捉えて、そこに自社の持っている資源をどう活かしていくか考えていく必要があります。これはイノベーションを生み出す方法です。マーケティングとイノベーションは相反することではなく、交差していくものだと考えられます。あるチャンスを見つけて、仮説をたて、そこに資源をあてて、ある商品を生み出したとします。それだけでは、何も起きません。コストをかけただけです。顧客に買ってもらってはじめて利益となり、市場に参加することができます。利益は市場への入場券です。

しかし、顧客との接点をマーケティングはもっと丁寧に考えます。どうして顧客はその会社の製品を購入するのか、どうして他の会社ではなくその会社から購入するのか、ということは単純ではありません。これは人間の心理に関わります。人間は必ずしも合理的に考えて、価格が安く、利便性があるから購入するというわけではありません。必要のないものは買いませんが、必要で買うわけでもないのです。その必要であるという意味は、その人個人によって多様な意味があります。そうした一つの人格を持った個人として顧客を扱う必要があります。顧客は単に消費者ではありません。企業もまた、単に商品を販売して利益を得るだけの組織ではなく、ある目的や文化をもった組織であり、個人の人格に例えられるようなものを持っています。これがブランドに表されます。ブランドはある意図をもって企業側が構築し、それが顧客にとっては記号になります。評価するのはあくまで顧客です。顧客という鏡に写ってこそ企業はブランドを認識することができます。ブランドは外から貼り付けた仮面ではありません。企業の本質から表れるものです。しかも、明確な意図がないといけません。その根幹となるものは、企業のビジョンです。企業の目指すべき姿、社会への影響、企業はその事業をすることによって社会に何をもたらすのかということです。そこに顧客はエモーショナルな共感を得ます。そうでなければ、商品を購入し続けることはありません。たまたま、見つけたから買うかもしれませんが、それだけです。企業の永続性に貢献することはありません。ビジョンに共感し、ブランドで認識し、感情が動かされ、ファンになります。そして、それを人はシェアしようとします。そこにコミュニティも生まれます。そうした一連の状況をつくり出していくことがマーケティングです。多くの人の人生そのものを捉えていくようなものになります。それは企業側も顧客側も社会全体に影響をもたらします。今日の社会において、マーケティングは大きな影響と責任を持っていると言えます。このように認識できている企業こそが顧客からも評価されるのではないでしょうか。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です